未婚で生まれた私。60年前に亡くなって認知した父の相続は有効か?

テレフォン人生相談 2020年8月21日 金曜日

10年前に他界した未婚の母が、私(相談者)には私が生まれてすぐに亡くなって認知した父親の相続権があると言っていたが有効なのか?

 

スッキリする話でないのは、なにも女の語尾伸ばしのせいではない。
ストーリーそのものが。

母親の振る舞いには2つの矛盾がある。

 

認知すべき父親がこの世に居ない場合、誰を相手に認知の訴えを起こすかというと、法曹三者のうちの一つ、検察。
これが死後認知の訴え。

一般的に認知訴訟の動機は2つ。

一つは子どもを父ナシにしないため。
もっとも、生きている父親なら、認知を拒絶されるから訴訟になるわけで、勝てば不埒な男の名前が戸籍の父欄を飾ることになる。

嫡出子か非嫡出子か、父なしか。妊娠8ヶ月で入籍避ける孫娘の彼

 

もう一つが経済的権利の確保で、慰謝料や養育費、そして相続。

もっとも、死後認知の場合、慰謝料と養育費は望めないので、目的は相続しかない。
もしや、男の家柄がそれなりなら、子の祖父母の扶養義務狙いもあるかもしれん。

いずれにしても死人に口なし。
主張はすべて原告を利する一方的なもの。

加えて、認知による原告の経済的利益もさることながら、死後認知は遺族の不利益が大きい。

このため、死後認知の判断は慎重を期すハズ。
もちろん60年前にDNA鑑定など使えない。

何が言いたいかというと認知の獲得は簡単ではなかったということ。

にも関わらず、母親は唯一の利益とも言っていい相続の権利を行使していない。

母は相続人である相談者の保護者として、有無を言わさず代理人であったにも関わらず。

訴訟費用は丸々持ち出し。

ここが1つ目の矛盾。

 

では単に父の名前を得んが為?
だが経済的な損得を抜きにして、母子家庭が訴訟までやるだろうか?

だいたい、認知やら、相続やらの話をしているくせに、父親のおおよその年齢すら言えないのは母親に訊ける雰囲気ではなかったからだそうだが、せっかく苦労して勝ち取った父の説明を避けて亡くなった母の姿は、これはこれで説明がつかない。

死後認知ならなおさらで、認知から逃げ回った男ではないのだから。

これが二つ目の矛盾。

 

清濁併せ呑む覚悟があるなら、父親について知るといい。
マルコみたく三千里を旅する必要はなく、今や自宅にいながら可能だ。

自分の戸籍を取得し、次に父欄の戸籍全部事項証明書(旧 戸籍謄本)を請求する。
実子なら理由すら訊かれずに容易に取得可能だ。

これだけで父親についてかなりのことが分かる。

いつ、どこで生まれ、祖父母は誰で、何人きょうだいで、いつ誰と結婚し、もしや再婚し、どこに移り住み、畑違いの兄弟姉妹はいくつで、何人いて、アンタが生まれた当時はどういう家族構成で、最期はどこで何歳で亡くなったとか、etc.

普通に強制認知も、義務から逃げ切って早死にしたことにした思い出したくもないクズ男だったのか?

母とは同年代の不倫だったのか?
色ボケ爺さんの手篭め(てごめ)だったのか?

 

最後にまったく別の可能性を挙げよう。
身も蓋もないが、実はこれが最も矛盾のない話。

それはアンタ自身の戸籍を取得した時点で父親探しが終るケースだ。
父欄が空白。

今日の相談の最初の認知に至るアンタの経緯説明は死後認知とは違っていた。
なのに大迫女史がすなわちそれは死後認知だと決め打ちしてしまった。

アンタ、海外に行ったことある?
パスポートを作ったか?ってこと。

婚姻届ですら戸籍の添付は必須でないし、これからが初めての戸籍請求じゃないかしら?

仮に過去に取得していたとしても、提出書類の一つに過ぎず、父の顔すら知らないアンタにとって父欄に意識すら向かなかった。

母親が相続について言い続けてきたわけじゃない。
きっと話をしたのは母親の晩年。
アンタが相続の知識をかじったのはここ最近。

なにより、父欄が空白であることこそが、相続権など存在せず、父の説明に消極的だった母親の振る舞いとピッタリと辻褄の合う結果だ。

いずれにしても還暦を迎えて母に感謝するアンタのこと。
どんなウソも許せよう。

 

パーソナリティ: 加藤諦三
回答者: 大迫恵美子(弁護士)

相談者: 女60歳 夫60歳 独立している子ども18歳

今日の一言: お金で人生の価値を計る人は不幸な人です。

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