妻を20年看護してきた夫、離婚できるか?

(回答者に交代)

坂井眞:
ストレートにお答えしますけども、仰るとおり、ご心配されているように、夫婦は助け合わなければならないという、民法上の規則がありますよね、ご存知だと思いますけど。

配偶者が困っているときに、夫から見たら妻、妻から見たら夫なわけですけども、それを、悪意の委棄、って言いますけども、それを放置してはいけないと・・いうこともあるわけで・・そういうことをされると、離婚裁判の理由になるくらいなんで、ちゃんとしなければいけないっていう法律の建て付けになっているわけですね。

民法上も、協力して生活して、助け合わなければならないという夫婦の義務があるのは仰るとおりなんです。

離婚するには、大きく2つの方法があって、離婚届に2人が納得してサインをしてね、役所に提出すれば離婚が成立するっていうのが一番多いと思うんですが、あります。
これ、協議離婚っていう方法です。

で、片方が離婚したい、片方は離婚したくない、こういう話もよく起きるわけですが、そういうときは、裁判所に訴えて、離婚を認めてもらう、そういう手続きがあるんですね。

訴える前に、裁判所で、調停っていう手続きを踏まなければならないんですけど、調停で話がまとまると・・、ある種、協議離婚の形ですが、調停離婚の形もあります。

ま、それも話し合いと考えると、大きく分けると、話し合いによる離婚と、裁判をやって、判決が決める離婚と、2つあるんです。

協議離婚の場合は、お互い納得してサインすればいいわけで、普通はそれで離婚が成立しちゃうんですが、今、奥様は統合失調症なので、ご自身が離婚してくれ、って仰るんだから、あなたとしては、20年一生懸命やってきたんだけども、ここまでやって、もう離婚してくれって、言われるんだったら、じゃあ離婚しようかという気になったと。

だけど、この人、離婚して、一人にして、大丈夫だろうか?、と。
そういうご心配なんですよね。

相談者:
そーうです。

坂井眞:
それは、すごく真っ当なご心配だと思います。
統合失調症の方なので、本気で離婚したいと思って奥様がサインしたのか?、問題になる可能性があるわけです。

相談者:
そーうなんですか。

坂井眞:
理屈の上では、サインして提出すれば離婚は成立しちゃうんだけど、
その時のサインていうのは本気じゃなかったと・・、病気のせいでサインしちゃったという話になる可能性はあるわけです。

相談者:
うん、そう・・。

坂井眞:
なぜそういう話になるかというと、協議離婚をして一人になったけども、奥様が生活できないという事態も考えられるわけですよ。

そこまで考えずに、本気じゃなく、サインしちゃったとなると、その離婚、協議離婚は、無効だと言われちゃう可能性がゼロでは無い、そういう問題ですよね。

相談者:
はい。

坂井眞:
だから、ご心配になっている点は、尤もな理由があると思います。
じゃあ、こういうケースは絶対に離婚できないのかというと、そうでもなくて、大きく分けて、2つ目の裁判離婚というやつですね。

相談者:
はい。

坂井眞:
それは裁判所が、こういう理由があれば離婚を認めるよって、民法の770条に書いてあるんです。

相談者:
あー、はい。

坂井眞:
民法770条1項1号から5号まで、あるんですけども、えー、
不貞行為があったとき、
悪意で委棄されたとき、それから、
相手の生死が3年以上明らかじゃないとき、
で、4番目が、ここはちゃんと読みますけども、
配偶者が強度の精神病に罹り、回復の見込みがないとき、
というのがあるんですね。

相談者:
ほー。

坂井眞:
5番目は、婚姻を継続しがたい重大な自由があるときその他、というのがあって、それも聞いたことあると思うんですが、ご相談のケースは4番目にある、、配偶者が強度の精神病に罹り、回復の見込みがないとき、にあたるのかもしれないと。

相談者:
おー。

坂井眞:
いうことかもしれないということですよね。

相談者:
はい。

坂井眞:
そうすると、そういう場合は、協議離婚が成立しなくても、裁判で認めてもらえる可能性があると、こういう話になるんですね、書いてあるんですから。

逆に言うと、裁判をやらなくても、そういう状況があったんだから、お互い合意して、協議離婚をしたって、おかしい話ではないと、こういう風にも思えますよね。

相談者:
うん。

坂井眞:
そういう話が前提にあって、あなたが、ご心配が尤もだというのは、過去の裁判の中で、今、言った770条の1項の4号を理由に裁判が起きたことはもちろんあるんです。

ちょと古い、昭和30年代の最高裁判決なので、古い判決なんですが、まだ内容は・・、別の判断が示されていないので、それをご説明しますと、770条の1項の4号の理由があった場合でも、

相談者:
はい。

坂井眞:
夫婦ってやっぱり協力しなければならないし、残された、強度の精神病で、離婚されてしまう側、の生活をまったく考えないのはおかしいじゃないか、という判断が多少入ってくるわけで、なので、そういう理由があるときでも、病気になった方の、今後の療養生活について、出来る限りの具体的な方策を講じなさい、と。

相談者:
ふーん。

坂井眞:
で、前途に、ある程度の見込みがついた場合は、この条項で離婚できますよ、っていう最高裁の判例があるんです。

相談者:
はい。

坂井眞:
ここから、具体的な、ご相談内容にお答えできると思うんですが、そういう前提で考えると、一つ、その・・、こういう場合に、今言った条文があるわけですから、離婚できないということではありません。
ていうのが一つ。

だけれども、最後に申し上げた裁判例がありますから、じゃあ、これで離婚しちゃったとして、奥さんの生活が成り立たないってことになると、それが問題の可能性になる場合があるんです。

こういうケースでまったく離婚が許されないということではありません。
ほんとの、重度の・・、今のお話だけで、判断しちゃいけないと思うんだえけども、お話を聞く限り、相当大変だと、だったということなので、さっき申し上げた民法の条文に・・、離婚できる条文には、当てはまりそうなので、

相談者:
ああ。

坂井眞:
あとは、ほんとに奥様が離婚したいというのがハッキリしていて、間違いないってことであれば、協議離婚も不可能ではないし、その場合に、後になって、そのときの合意が本気だったかどうかということをね・・えー・・証明というとおかしいけれども、本気だったから、その後の生活についても、ここまで考えましたよ、と。

奥様が、どうしても離婚したいと言うので、私も・・もう・・やむを得ず、というか、とうとうというか、応じるような形にすればね、協議離婚も不可能ではないけれども・・、
ただ、疲れた瞬間にそう思われるのと、そうじゃないときに、違う気持が出ますでしょう?、お話伺っていると。

相談者:
はい。

坂井眞:
ほんとにそれでいいんだろうか?、と。
それは、よくよく考えた方が・・迷わすようなことを言って申し訳ないけども。

相談者:
いえいえ。
はい。

坂井眞:
あとは、その、どうできるのか、奥様の生活を。

相談者:
はい。

坂井眞:
それがちゃんとしないと、先の具体的な、別れてどうするのか、ということまで、見えてこないから、それを具体的に・・、もし離婚のことを考えるんであれば。

相談者:
はい。

坂井眞:
具体的な方策・・判決が言っているような。
考えてみられるといいと思いますけれども・・。
あまりスッキリしないお話で申し訳ないですけども。

相談者:
いえいえ。
そうなんですよね。具体的な将来のことを考えてから、ということになりますね。

坂井眞:
それをしないと、別れるって言っても、じゃあ次の日からどうするんだということが問題になりますでしょ?

相談者:
そうです。

坂井眞:
そこから考えないといけないと思います。

相談者:
分かりました。

今井通子:
お分かりいただけましたか。

相談者:
ゆっくり考えていきたいと思います。

今井通子:
一人で思いつめちゃうとね、あなた自身もウツ病になっっちゃうと困るから。

相談者:
ほんと、そう思います。

今井通子:
坂井先生のお話をかみしめて、考えて頂いて、また何か、ご相談ごとがあったら、こちらにまたお電話ください。

相談者:
はい、わかりました。
よろしくおねがいします。
ありがとうございます。
失礼します。

(内容ここまで)

歯切れ悪いなー、坂井先生。
おんなじことを何回も言ったりして。

相談者、離婚には踏み切れないと思う。
離婚後の妻の生活に具体的な見通しが立てばって言うけど、思いつかないから今日の相談になっているわけだし。

たとえ、離婚したとして、看護の手間からは解放されるでしょうけど、この人、奥さんのことが気になって、あるいは罪悪感に苛(さいな)まれて、心の安定は得られないと思う。

相談者自身も分かってるんだと思いますが。

 

統合失調症、パーキンソン、膠原病。

ググると、私的には、身体的疾患を伴う、後者2つの方が深刻な感じなんですが、相談者自身は統合失調症に参っているようでしたね。

要は、奥様からの感謝がなくて、看護のし甲斐がない。
相談者は誰にも分かってもらえない辛さっていうのがあると思う。

やってることの意味づけが必要なんですが、法律相談になってしましました。

今井さん、さすがに、いつもの、頑張ってねー、は出ませんでした。
そんな軽口で済ませられないですものね。

しかし、相談者の苦労を一番理解してくれているだろう医者からの、ねぎらいの言葉、
「よく20年も頑張ってこられましたね」
これが引き金になって、張り詰めた糸が切れるなんて、なんて皮肉。

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