2015年1月20日の相続の相談、
「遺産分割しないまま30年のツケ。住み続けられるか?」
法定相続のおさらいに、ちょうど良かったので解説してみました。
いつもように記事の最後の感想に書いてたんだけど、長文になってしまったので、エントリを分けました。
直接このページに来た方で、元の相談をまだ読んでいない場合は、読んでから、もう一度来ていただいた方がいいんですが、面倒くさいと思う人のために、相談内容を要約すると、
相談者は、
女67歳 子ども4人のうち末娘と暮す。
夫とは2年前に死別。
夫は3人兄弟の長男。
以下は時系列。
・47年前に夫の父が家を新築。相談はこの土地と家の扱い。
・30年前に父が他界。
・25年前に相談者家族がこの家に入居。
・2年前に夫が他界
・一ヶ月前に、夫の母が他界
この状況で相続人の法定相続の割合を出してみます。
相続が済んでない、とか、終わった、とかじゃなく、それは遺産分割協議のこと。
まず、法定相続の算出に入る前に、基本的なことを。
この相談者もそうだし、今井さんもそうなんだけど、
よく、
相続が終わっていない、とか、
相続が済んだ、とか、
言うんだけど、これ、正確には「相続」の箇所を、「遺産分割」とか、あるいは「遺産分割協議」と言い換えた方がいい。
相続放棄のときにこそ手続きが必要
いや、単に言葉尻を捉えてるんんじゃくて、
相続は、亡くなった瞬間から発生するということ。
相続は、何もせずに、放って置いても発生するということ。
つまり、遺産があれば、自動的に、強制的に、相続人が引き継ぐことになるわけです。(ここ重要)
何も手続きしなくったって、法定相続分の権利を持ったことになるわけ。
(もし、遺言書があれば、そっちに書いてある方が、法定相続の規定よりも優先されたりもしますが、ここでは省きます)
これは、例えば、遺産が不動産の場合、その名義変更の有無とは無関係です。
名義が亡くなった人のままでも、権利は相続人が持ってるわけ。
だから、俗に、相続が終わってない、なんて言うときは、遺産が相続人の共有財産のまま、分割されずに、放置されてることを意味してるんですね。
一方、自動的に相続人になるということは、逆に、相続人になりたくない、遺産を引き継ぎたくないときにこそ、手続きが必要だということになります。
これが、相続放棄の手続きです。
相続人になるには、手続きは必要なく、
相続人になりたくないときに、手続きが必要なわけです。
借金を相続しないための相続放棄
このことは、遺産がマイナス、つまり、亡くなった人に借金があるときなんかは、特に大事になってきます。
相続放棄には期限がある
なぜかって言うと、相続放棄の手続きには期限があって、相続の事実を知って3ヶ月経ってしまうと、相続放棄が出来なくなるからです。
保証人でもなんでもないのに、
亡くなった人とは行き来すらないのに、
その人の、借金を肩代わりすることになってしまうことだってあり得るわけです。
ただ、安心してください。
相続放棄の期限は、亡くなってから3ヶ月ではなく、
相続放棄の期限は、相続の事実を知ってから3ヶ月です。
だから、相続放棄に期限があることを知ってさえいれば、突然知らない間に借金を背負うなんてことにはならないはずです。
突然の相続税に驚かないために
自動的に相続人になるということは、遺産がマイナスのときだけでなく、遺産が不動産のときにも思わぬことになります。
以前、テレフォン人生相談で、何も考えずに不動産を相続してしまい、多額の相続税の督促が来た人からの相談がありました。
遺産が現預金なら、相続分から支払えば済む話しですが、不動産の場合は売却して現金化するしかありません。
ところが、不動産が工場や店舗で利用中だったりすると、売るわけにもいきません。
つまり、単に不動産の持ち主が変わっただけなのに、納税のための現金が必要になってくるわけです。
滞納すれば、財産が差し押さえられます。
相続税は国税
地方税なら、地域によっては、税金が何年も滞納されてる、なんていう話も聞くんですが、相続税は、管轄が、泣く子も黙る国税なので、その取立ては、容赦ありません。
だけど、相続税には基礎控除がある
庶民は安心していいかもしれません。
相続税がかかるのは、ある一定以上の相続財産だけだからです。
相続遺産が上限までなら、相続税はかからない。
この上限のことを、相続税の基礎控除といいます。
相続税の基礎控除額は、
3,000万円 + 600万 × 相続人数
です。
つまり、遺産総額が、
相続人が1人なら、3,600万円
相続人が2人なら、4,200万円
までは、相続税の心配は必要ありません。
30年前の義父が亡くなったときの法定相続
さて、話を戻します。
30年前に夫の父が亡くなったとき。
このときの法定相続は、親子で半分づつですから、
義母が1/2で、その子どもが1/2です。
兄弟は均等に分けますから、以下のとおり1/6づつ受取ります。
義母 1/2
長男(夫) 1/2 × 1/3 = 1/6
次男 1/2 × 1/3 = 1/6
三男 1/2 × 1/3 = 1/6
夫が亡くなったときの法定相続
次は2年前に相談者の夫である長男が亡くなったときです。
このときの法定相続は、
妻である相談者とその子どもで半分づつです。
元々、夫である長男は1/6を相続してますので、
相談者は 1/6 × 1/2 = 1/12
相談者の子どもは4人なので、さらに4等分しますから、一人あたり、
1/6 × 1/2 × 1/4 = 1/48
を相続することになるわけです。
義母が亡くなったときの法定相続
さて、現段階での最後の相続は、一ヶ月前に夫の母が亡くなったときです。
夫の母は、夫の父が亡くなったときに1/2を相続してますから、これを相続人で分割します。
相続人は、子である3人の兄弟ですが、相談者の夫である長男はすでに亡くなっています。
代襲相続の発生
亡くなってはいるのですが、その子ども4人が、父の代わりに相続人となって、父の相続分の全てを相続することになります。
これを代襲相続といいます。
代襲相続人になるには、いくつかの条件がありますが、まず、亡くなった本来の相続人の子だけです。
ですから、妻である相談者は、夫の代襲相続人にはなれません。
4人の子が代襲相続するわけです。
ですから、夫の母の持分1/2を、
次男と三男が1/3づつ、
相談者の子は亡くなった夫(長男)の取り分1/3を均等に分けることになります。
これを30年前に夫の父が亡くなったときに、相続した分に加えます。
亡き夫の2人の弟が、
次男 1/6 + 1/2 × 1/3 = 1/3
三男 1/6 + 1/2 × 1/3 = 1/3
相談者の4人の子どもが一人あたり、
1/48 + 1/2 × 1/3 × 1/4 = 3/48
相談者は変わらずに 1/12
これが、今現在の法定相続分です。
ちなみに、相談者とその4人の子の持ち分を足せば、
1/12 + 3/48 × 4人 = 1/3
なんのことありません、長男である亡き夫の取り分そのものなわけです。
冒頭で言ったように、相続が済んでなくても・・もとい、
遺産分割をしていなくても、いや、済んでいないからこそ、相続の権利が突然消えてなくなることはないないわけです。
ただ、放っておけば、このケースように、相続人の死亡、代襲相続、あるいは、結婚、出産やらで、相続人が増えたり、減ったり。
それに伴って、相続人どうしの関係性は薄くなって、処理が面倒になること、この上ない。
それから、放って置いても、権利は消えてなくならないのですが、共有段階の遺産が、誰かに使われてしまったり、処分されることは起こり得ます。
知らずに、あるいは悪意によってね。
正当な権利を主張したって、無いものは無いし、悪意なんてのも、その証明が難しかったりする。
そうなると、もう、取り返せない場合もあるということ。。
だけど、それはまた、別の話。