葬式にも出なかった娘に届いた形見分けのハンドバッグ。今の生活が母からの贈り物

(回答者に交代)

大原敬子:
こんにちは。

相談者:
はい

大原敬子:
苦しいでしょう?

相談者:
苦しいです。

大原敬子:
ねえ、すごく苦しいですよね。
で、ちょっと伺っていいですか?

相談者:
はい

大原敬子:
今あの、最初に勝野先生とお話なさっているときに、メモ読んでいました?

相談者:
ああ
お話しなきゃなんないことを、箇条書きで書いておりました。

大原敬子:
そうですよね。

相談者:
はい

大原敬子:
それがあなたの性格で、それがあなたを苦しめているんですよね。

相談者:
はあ

大原敬子:
一生懸命に生きてきたんですよ、真面目に、真面目に。

相談者:
はい

大原敬子:
でね、本来これ、一見見ると、お母さま亡くなったのに、その亡くなったその相手に、も、八つ裂きしたいくらいに憎らしいって聞くとね、一般の人は「ええ!?」って驚くかもしれないけれども、あなたの世界は、すべてお母さまの世界に居たんですよね。
その、

相談者:
すべて・・

大原敬子:
すべて。

相談者:
はい

大原敬子:
すべて、お母さんの、世界の中で、怒りを持ったり、楽しみを持ったり・・
嫌いでもですよ?、宿してきたものが無くなってしまったときに、迷走してるんだと思うんです。

相談者:
・・

大原敬子:
と申しますのは、

相談者:
はい

大原敬子:
「最後に会ったのが、7年前で、わずか15分くらいです」って、あなたはしっかり覚えているんですね、お母さんのことが。

相談者:
はい

大原敬子:
でも、7年前ってことは、更に3年前、10年前に、ご主人さまと別れたい、って言ったときに、いの一番に相談に行ったのがこの家なんですね。
そうですね?

相談者:
はい。

大原敬子:
ということは、その、「嫌いだ、嫌いだ」、「あの母親に対してわたしは苦労したんだ」と思いながら、自分の夫婦関係で、少し雲行きがおかしいときに、まず行った所が母親の元であってということは、やはり、憎しみがあっても、お母さんっていう依存性が強かったんじゃないでしょうかね?
どうですか?

相談者:
仰るとおりです

大原敬子:
そうですよね?

相談者:
はい

大原敬子:
だから、憎んでいながらもこの母がいなければ生けていけないこの自分?

相談者:
はい

大原敬子:
この弱い自分が許せなかったけど、それでも、母を求めて行った。
そのとき言った言葉が、お母様が「今の生活レベルを下げるのが嫌だ」ってことを聞いた。

相談者:
はい

大原敬子:
でも、ふと、モノの見方を変えると、あなたみたいな真面目な人が、離婚しなさいってなったときに、少なくとも、どう生きていくか?ってことは分からないですよね?

相談者:
・・

大原敬子:
今、言っているのは、あなたが、思ったお母さんのイメージ。
目障りな存在?
女として素晴らしい・・「わたしは劣等」って思ってるけれども、もしお母さんの見方を変えたときに、あなた今の感情が続くかな?ってわたし思うんですね。
と申しますのは、お母さん自身がすごい劣等感のあった方じゃないか?と思ってんですね、実は。

相談者:
あ、あ、それは・・初めて伺いました。

大原敬子:
つまりね、満足してないから、美形とか、云々言うんじゃないですか?
人間ってのは、なぜ、こんなに美人なのに、なぜわたしは不幸なんだろう?って思ってるってことは不幸でしょう?

相談者:
はい。

大原敬子:
あなたが、ちょうど、10代の頃、自分の夫が浮気しましたよね?

相談者:
はい

大原敬子:
浮気したときに、そのお母さんは、自分の中に劣等感があった、その劣等感を打ち消したいには、お父さんに似てるあなたに、感情をぶつける以外になかったんじゃないでしょうかね?

相談者:
・・

大原敬子:
とかくね、女性が、夫に対する不満がすごくあったとき、だけれど、自分に劣等感があったとき、
それから、夫に、ある面を見せてはいけない・・
そういう母親っていうのは、子供にいくんですね。

相談者:
はあ

大原敬子:
徹底的に子供に責めるんです。

相談者:
はい

大原敬子:
で、責めるときに何を言うかというと、自分が、感情の苛立ちを、ある理由を付けて怒ることによって、自分の正当性をもってくんです。
母親に言われたときに、あなたの中に大きな挫折・・ダメージかな?、得たんだと思うんです。
でも、お母さんは、あなた以上に、すごいダメージを受けて、一生終わったんじゃないでしょうかね?

相談者:
・・

大原敬子:
そうすると、お母さんが、愛があったら、あなたに対して、夫との関係がうまくいかなかないときに、別れさせることはしないですよね?

相談者:
・・

大原敬子:
ということは、今のあなたの生活の母体を守ったのは、このお母さんの言葉なんですよ。
そう思いません?

相談者:
・・
考えたことも(無かった)・・恐れ入ります

大原敬子:
いいえ

相談者:
意外なお言葉ですので・・はい

大原敬子:
だって、今のあなたの生活の基盤は、その憎っくき母親の、その言葉で踏みとどまったと思うんですよね。

相談者:
はい

大原敬子:
と、お母さんはすごい財産を、あなたに残しましたよね?

相談者:
・・

大原敬子:
あなたは本当に母親を好きだったんです、心から。
心から憎んだんです。
なぜかと言うと、お母さんが好きだから、お母さんが好きなように頑張った。
だけど、お母さんの言葉はわたしが返ってこない。
じゃあ、なぜ死ぬ前に、「何々ちゃん、お母さんのために頑張ってくれた、ありがとう」でも一言も言わずに逝ってしまったこの母を、それをあなたは憎むんだと思うけども、
それ憎むってことは、それほど好きだったってことです。
好きで好きでたまらなかった。
だけども、好きだって認めてしまったら、お母さんはわたしに何もやってくれないってあなたは思ってるんです、きっと。

相談者:
・・

大原敬子:
お母さんは、すごいもの残してました。
あなたの結婚生活です。

相談者:
・・

大原敬子:
お母さんに憎しみをもっていけるっていうことは、

相談者:
はい

大原敬子:
もっと言うと「お母さん、なんでこんな早く死んじゃったのよお!」
「もっともっとわたし言いたかったのにい!」っていう感情もあるんですよ。

相談者:
あー、それはそうですね。

大原敬子:
つまり、今あなた言っているのは、寂しいってことです。
「お母さん、もう一度会いたかった」ってことですよね。
でも、それ認めてしまったら・・
生きていけない、今のあなたの感情なんですね。

相談者:
・・
いやあ、恐れ入ります。

大原敬子:
ん?

相談者:
あの・・彼女があ

大原敬子:
うん

相談者:
不幸だったっていうふうに思ったことがないもんですから。

大原敬子:
うん

相談者:
彼女は常に賞賛されておりました。
だから、彼女は十分幸せだと思ってましたんですが。

大原敬子:
人間はね、

相談者:
はい

大原敬子:
100人の人が賞賛しても、自分がほんとに「この人」と思ってくれる人が、賞賛してくれなかったら、これ地獄ですよ?

相談者:
はい

大原敬子
たった一人、この人だけ愛してって人が愛してくれたら、あと100人が、「ダメだよこの人」って思っても生きていけるんです。
そう思いませんか?
お母さん、寂しかったと思いますよ?

相談者:
・・

大原敬子:
あたし、いつも思うんです。
愛ってね、

相談者:
はい

大原敬子:
そのときに優しくなくてもいいんです。
最期に、ふっと気づいたときに、こんなことを守ってくれたと思ったのが、愛だと思ってるんです。

相談者:
・・

大原敬子:
その瑣末(さまつ)なチクチク、チクチク苛められたことが、くやしくってもね、
気づいたら、「こんな大きいものを残してくれた」って思ったときに、それを、慈悲って言うんじゃないかなとわたしは思うんです。

相談者:
はい・・

大原敬子:
慈しむ愛っていうのは、表面でキレイごとではないような気がするんですね。

相談者:
はい

大原敬子:
で、私がホッとしたのは、ああ、お母さまとあなたの仲に、お互いに、いがみ合っていながら、お互いが求めていて・・
親子っていうのは、こうして許されるんだな、って。
で、それぞれが・・旅立って行って、残された者は、今もお母さんを考える。
あー、それ愛かなあ、と思って今聞いてました。

相談者:
はい

大原敬子:
だから、これからも、いいお母さんで云々は思わなくていいんです。
憎っくき母と思いながら、お墓参りして、お墓参りの中で、
「あなたはこれやったでしょお!」、「◆#$%でしょう!」って言ってもいいんじゃないかしらね?

相談者:
・・

大原敬子:
そうしていながら、でも、お墓参りに行ける、このわたしの生活母体、家族があるっていうことですよね?、家庭が。

相談者:
はい

大原敬子:
と思ってお墓参りに帰っているうちに、あなたの中に、すごく大きなもの?
何かを感じるような気がするんです。
究極は、お母さんの世界がいなくなった寂しさだと思います。

相談者:
はい、恐れ入ります。

大原敬子:
てことは、どんなことがあっても、そういう親子で戦ってきた触れ方も、幸せですよね?

相談者:
はい

大原敬子:
幸せは、形は、いろんな形がありますから。

相談者:
はい。

勝野洋:
はい

相談者:
お時間頂戴いたしまして、ありがとうございます。

勝野洋:
はい、じゃあ、どうも

相談者:
はい、ごめんくださいませ。
恐れ入ります。

勝野洋:
これで失礼いたしまあす、ありがとうございまあす。

(内容ここまで)

大原さんの見立てが合っているかどうか、それは誰にも分かりません。

でも、まったく違う視点を授けられたことは間違いないみたい。
あとは、相談者が感情をどう処理していくかだけど。

 

それから、父親が相談者に母の他界を知らせたときのセリフ「(葬式に)来るに及ばず」

時代劇常連のハズの勝野さんも誤解してるけど、「及ばず」に禁止の意味はありません。

「し方がない」とか、「そこまでする必要がない」とか、辞退したり、遠慮のニュアンス。

つまり父は、相談者に「無理しなくてもいいぞ」と言ったわけです。
娘の感情を理解している父親からの思いやり。

「来るな」などと解釈してしまうと、形見分けに秘められた父からのメッセージを理解できません。

もちろん、この家庭では通常の会話だから、それは相談者も理解しているわけ。

 

で、このハンドバック、父親が母に贈ったもののような気がするんだけど。

それが、大切にされていたことに、父は改めて母の想いに気づかされたんじゃないのかね?

仲違いしている娘に、あえて形見分けをしたのは、そして、あえてこれを選んだのは、父から娘への無言のメッセージ。

男女と母娘は違うけど、お前にも気づいて欲しいことがある、みたいな。

いくらなんでも、ストーリーを作り過ぎ?
でも、お母さんを忘れないで欲しい、ぐらいの想いはあると思います、父として。

 

最初は、違和感があった相談者の語り口だけど、私は聞いてるうちに心地良くなってきました。

純文学の世界てのかな。
母の言葉にしてもそうですが、父の言葉も、そして、それぞれの態度も。

きっと素敵なハンドバック。

いつの日か、相談者が、このハンドバックを持って、お母さんのお墓参りをするときが来ます。

「葬式にも出なかった娘に届いた形見分けのハンドバッグ。今の生活が母からの贈り物」への3件のフィードバック

  1. ハンドバッグは父からの贈り物だったという、管理人さんのご慧眼、畏れ入ります。

  2. 管理人様のコメントにほんとに心が軽くなった気がします。
    私も母親役が憎くて仕方なかった、
    妹や弟への愛情の偏り、父からの暴力から助けてくれなかったこと、
    優秀ないとことの比較、
    痴漢にあったとき助けてくれなかったこと、家庭訪問のとき担任教師へ思いっきり出来の悪い娘だと悪口言われたこと、
    生理痛が酷くて寝込んでいたら
    なんでそんなに痛いの?と不思議がられた事
    誕生日にプレゼント送ったらそんなの頼んでないと言われたこと
    離婚した夫から暴力されたといったらふーんって言われた事
    娘が腕を骨折したときバカみたいと行った事
    いつか許せる時がくるのか、
    彼女の方が不幸だったと、
    未だに悩みます。

  3. いつもながら管理人さんの鋭さに感服します。
    大原先生の「慈悲は綺麗事ではない」が私にもいつか腑に落ちる日が来るのかなと思いました。

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