義父の相続。同居の義兄夫婦が貰った生前贈与。早合点して電話を切りたがる男
(再びパーソナリティ)
今井通子:
お分かりいただけましたか?
相談者:
はい分かりました。
今井通子:
ま、ただ、いずれにしても、あのお、お嫁さんがおっしゃる、事も、あの、一理あると思うのは、
相談者:
あ、なるほど(苦笑)。
今井通子:
うん、やっぱりだってほら、ずっとお、お父さまの面倒を看て、
相談者:
うん
今井通子:
ま、3度の食事じゃないけど、そういうのもやってらしたんでしょ?
相談者:
あ、や、そうです。
今井通子:
うん・・でその辺は、皆さんも考慮なさった方がいいかもしれないですよね。
相談者:
はい分かりました・・はい
今井通子:
じゃ、そういう事で。
相談者:
はい、はい、ありがとうございました。
今井通子:
はい
相談者:
はいどうも
今井通子:
失礼しまーす。
相談者:
はい、はい
(内容ここまで)
長女の夫 vs 長男の妻
相続人はどこに?(笑)
さて、まず法定相続分は至ってシンプルだ。
父親の遺産を兄弟4人で四分の一づつ均等に分けるだけ。
争点は生前贈与の取り扱い。
あと寄与分かな。
肝心なことを言わない塩谷弁護士
さて、塩谷弁護士の回答はまさに歩く六法全書で、当たり前だけど、どこも間違っていない。
だけど、肝心なことを言わないんだよねえ。
案の定、男は相応の取り分があると早合点して、電話切りたがる、切りたがる。(笑)
結論から言うと、この相続に関しては、特別受益の持戻しはほとんど機能しない。
その理由は、塩谷弁護士がしれっと口にした、
「戻すと言ってもね、現金で戻すとかじゃなくて計算上って事になるんです」
ここがものすごぉく、重要。
説明しよう。
遺産がなければ特別受益の持戻しは意味がない
父親の遺産は預貯金だけだ。
ちなみに、いくら残っているのか、長男の妻が教えないって言うけど、銀行は相続人であるアンタの妻になら答える義務がある。
半年前に相談者が確認した残高が100万円だったというから、それがそのまま残ってて、長男夫婦が葬儀代に使ってしまったとしよう。
そうすると、相続財産は100万円ということになる。(*)
(*)葬儀費用を相続財産から差し引くことは認められない:
遺言、もしくは事前に相続人の間で合意でもしていれば別だが、葬儀費用はそれを執り行った者が負担するという判例が幅を利かせていて、ほとんど争点にはならない。
で、家の建て替えで父親が出した1,000万円と、その後の援助300万円すべてを、相談者の主張する通り特別受益として遺産に持ち戻すと、遺産総額は現有の100万円と合わせて1,400万円。
ちなみに、持ち戻した後の遺産総額は、現存する遺産と区別するために、”みなし遺産”、”みなし相続財産”と呼ぶ。
1,400万円は、みなし相続財産だ。
この、みなし相続財産を兄弟4人で分けるから、一人当たりの法定相続分は350万円。
さて、問題はここから。
特別受益者である長男への配分は、特別受益額がすでに貰ったものとして法定相続分から差し引かれる。
つまり、長男への分配は、350万-1,300万の▲950万円。
長男がこのマイナス金額を実際に遺産に返せば、現存する100万円と合わせて1,050万円。
兄弟3人の350万はちょうどまかなえることになる。
おそらく、今日の相談者もこう認識していることだろう。
しかぁし!
残念でしたぁ。
民法の持戻しの規定は特別受益者にそこまでのことを求めていない。
じゃ、どこまでかというと、あくまで現存する法定相続分の範囲まで。
どういうことかというと、特別受益を受けた相続人は、配分がゼロになるまでは減らされるが、それ以上のマイナス分を補填する義務はない。
例えば仮に、父親の口座に3,900万円残っていたとしよう。
これに特別受益の1,300万円を持ち戻せば、みなし相続財産は5,200万円。
4人兄弟の法定相続分は一人1,300万になる。
長男は特別受益1,300万を差し引かれて分配はちょうどゼロ。
他の3人は、現存する3,900万を三等分して一人1,300万円。
これで、やっと4人兄妹平等の相続が実現する。
もう分かって頂けたかしら?
つまり、特別受益1,300万円の持戻しが機能するためには、現有の遺産が3,900万円必要なわけだ。
結局、相続開始時点の口座残高100万円を特別受益者である長男を除く3人で均等に分けるだけ。
一人33万3千3百33円也。
しかもこれは、兄夫婦が特別受益を認めた場合だ。
兄夫婦がそんな事実はないと主張すれば、相談者(の妻)が贈与を立証しないといけない。
ただ通常、これはそれほど難しくはなくて、先ほど、銀行は取り引き履歴を開示する義務があると言ったけど、それで授受が分かればそれでいい。
もしそれでも、兄夫婦が特別受益を認めたくなければ、今度は逆に授受のお金が贈与でないという立証を兄がしないといけなくなるが、贈与を贈与でないとする立証はムリ。
もっとも、相談者の場合は通常じゃないんだな。
だって、1千万は20年前で、300万は15年前でしょ?
金融機関の取り引き履歴の保存期間は短いとこだと5年、長くても10年のところが大半なの。
となると一転、やっぱ贈与の立証は難しいかなって。
100万は長男も含めた4等分にせざるを得ない。
相談者(の妻)の取り分は25万円になる。
悔しいだろうけど、アンタにとって、特別受益の持戻しによる恩恵は 33万3千3百33円と25万円との差。
8万3千3百33円だ。
だからねえ、
相談者 「(贈与の)証拠も何もないんですけど」
(笑)
完全に心配するポイントがズレてるの。
特別受益は差し引く相続分があるからこそ意味があるの。
現存する遺産がちょびっとしかないのに、贈与が1千万か、1千3百万かなんて関係ない。
もっと言うと、長男夫婦に言われるがまま、父親の預金から葬儀代の出費を認めれば、遺産はゼロ。
生前贈与だの、特別受益の持戻しだのは、本当にまったく意味をなさなくなる。
自分で調べて、確認の意味で電話して来たみたいだけど、もう少し頑張らんと。
あと、もし、持戻しは必要ないという意思表示が被相続人である父親によってなされていれば、それが通る。
遺言は、遺産の分配だけでなく、終わった贈与についても言及しておく必要があるということね。
ここで遺留分のことをちょっとだけ
もっとも、相談者に光明が差す部分もある。
遺留分だ。
遺言ですら侵すことの出来ない強い権利。
相続分の最低補償額のこと。
もし、現有する100万で遺留分を算出すると、一人頭の遺留分は法定相続分25万円の半額12万5千円。
上で算出した取り分は約33万円だから遺留分はどこも侵害されていない。
ところが、みなし相続財産で遺留分を算出すると、350万円の半額175万円。
これだと、約142万円の遺留分が侵害されていることになってしまう。
侵害された原因は言うまでもなく、長男が受け取った生前贈与だから、長男は3人が遺留分を請求してきたら、一人当たり約142万円を支払う義務が生じる。
果たして遺留分の算出元は現有する相続財産なのか?
それとも、みなし相続財産なのか?
これ、すごく大きな差なんだけど、なぜか民法にはまったく触れられていない。
いずれにしても、長男(の嫁)がこれが争点になることを知れば、銀行の取引履歴が10年分しかないことをいいことに、特別受益を認めることはない。
同居の父親の世話は寄与分にならない
ついでだから言っとくけど、最後に今井さんが言ってた、長男夫婦が父親の世話をしていたことも考慮すべきだというアドバイス。
もちろん、一般常識的にはそうかもしれんし、円満に解決しようと思えば必要かもしれん。
でも言い換えれば、それ以上の意味はないってこと。
相談者の男からすると、夫婦が父親に寄与したというのは逆で、動けない義兄の家計を父親が支えていたという認識なんだな。
いずれにしても、断言するけど、出るとこに出れば、つまり話し合いの場を裁判所に移せば、兄夫婦の行為が寄与分として認められることはまず無い。
もちろん、相続分と同じで、他の相続人が承諾すれば、どんな些細な事だって寄与分にしていいし、法律が出る幕はない。
言いたいのは、一旦、寄与分が争点になった場合のこと。
寄与分を主張する側にとっては、大変なハードルになる。
寄与分は特別な寄与でなくてはならず、さらにその行為によって遺産が増額、もしくは維持できた事実を示さないといけない。
要介護5の父親を10年間在宅で看たとか、無給で家業を手伝っていたとかなら話は別だが、同居の家族どうしが助け合うのは当然のことであって、寄与分の主張は鼻にも掛けてもらえない。
ほとんどない義父の遺産相続の相談をしてくる男っていやらしい〜
法的な解釈は勉強になりました。
普通なら、高齢の父親の面倒をみてくれた
兄夫婦に感謝して病気のお兄さんに援助したいと思うでしょうに。相談者さんの声色を聞いていると人間の嫌なところしか感じられず
兄嫁に同情しました。管理人さんズバッときってください。
本サイト解説コメントまで含むと完成。勉強になります
プロレスだったら相談者の役どころ(ヒール)は満点
あくまで!ここの解説ふくめれば‼
花咲爺さんのお隣、
あわてんぼうの意地悪爺さん
すってんころり大きなつづらを持っていくからさあ大変