認知症の公正証書遺言は微妙。自宅に寄生する長男の相続分を減らすには?
(再びパーソナリティ)
今井通子:
お分かりいただけましたかあ?
相談者:
お世話になりま・・あ、はい、分かりました。
今井通子:
はい、どうもお。
相談者:
はい、ありがとうございます。
今井通子:
はい、じゃあ失礼しまーす。
相談者:
お世話になりました。ごめん下さいませ。
今井通子:
はーい
(内容ここまで)
難しいかな、公正証書遺言は。
だって、立会いは単なるセレモニーじゃないから。
相談者が草案を作成するのはいいんだけど、内容は夫の意思によらなければならない。
「ご長男の相続分は〇〇ですね?」
公証人がこういうクローズド・クエッションだけで済ましてくれるならこんな楽なことはない。
だけど、そうは問屋が卸さない。
「ご長男の相続分は何ですか?」
こういうオープン・クエッションには受け答えできまい。
自筆証書遺言でもいいんだけど、父亡き後、取り分の少ない長男が、認知症を理由に遺言書の無効を主張してくるとやっかいなことになる。
長男がそこまでするのかって感じだけど、相談者が水を向けても家に一銭も入れない57歳の男だ。
そもそもが、直接、長男に話を通せばいいだけのことを番組に相談しに来てるわけだし。
秘密証書遺言ならいけるかもしれない。
秘密証書遺言は、文字とおり、中身については遺言者本人だけしか知り得ない遺言書のこと。
封印には公証人が立ち会うものの、内容については関知しない。
夫が署名と簡単な受け答えさえできるのなら、相談者による代筆も可能だ。
ただ、代筆が可能ということは、認知症を理由とする無効の主張を排除できないということにもなるんだけど。
もっとも、今日の相談に限れば、別段、遺言書に頼る必要はない。
相談者の希望は民法の規定だけで足りる
相談者の希望である、「過去に長男に渡した分を長男の相続分から減らしたい」というのは、民法の規定だけで実現できるからだ。
それは、「特別受益の持ち戻し」という規定。
生前贈与を遺産の一部と見なし、受け取った贈与は特別受益として、すでにもらった相続分とするという規定だ。
この規定によれば、長男が受け取った2千万、および無償で同居していたことによる経済的なメリットを生前贈与として遺産総額に加えることになる。
で、その遺産総額を法定相続分で分割し、長男の法定相続分からは、贈与分がそのまま特別受益として差し引かれる。
これで、相談者の希望は適う。
だから、相談者がやるべきことは、長男が贈与の事実を否定できないようにするためのエビデンス(証拠)の整備だ。
マンション購入費2千万の授受の記録はもちろん、日々の生活費。
同居していることは周知の事実だから、概算でいい。
塩谷弁護士の提案にミソをつける税金の壁
あと、塩谷弁護士が言っていた、一旦、相談者が全てを相続し、それから子どもたちに差配すればいいという提案。
これなら、内容が単純な分、認知の夫でも公正証書遺言が可能かもしれないという理由なんだけど。
だけど、塩谷さんの意図が、認知夫の相続処理のことを言っているのか、あるいは相談者自身の相続で子どもたちに差配することを指しているのかがイマイチ不明。
実は、いずれも税金面でのデメリットが大きい。
まず、認知夫の相続で子どもへの分配をしようとする場合。
相談者が全てを相続すれば、たとえ一時とはいえ、それは相談者の財産になる。
それを子どもたちに差配するとき、果たして税務当局が一連の相続処理とみなしてくれるかどうか。
一番のネックは、遺言によって母親が相続したということだ。
その後の子どもへの分配は、生きている相談者の意思であって、相続ではない。
どう見たって贈与だ。
であれば適用されるのは相続税ではなく、贈与税になる。
残された家族4人で一億そこいらの金額だと、贈与税の方が格段に高い。
で、もし、相談者の相続で子どもたちに分配しようとするとき。
いつになるか分からんけど、これなら、相談者が遺言で差配すればいいだけの話。
なんだけど、ネックはやはり税金。
相続税には基礎控除というのがあって、遺産総額から基礎控除額を差し引いた金額が課税額だ。
今日のケースでは、夫の相続では5,400万円、
相談者の相続では4,800万円がそれぞれの相続における基礎控除額だ。
ところが、夫の遺産を相談者の相続一回で子どもたちへ相続させようとすると、本来、夫の相続で使える5,400万の基礎控除を使わないことと同じことになってしまう。
ざっとだが、子どもたちは1千万単位で相続税を多く支払う払う羽目になってしまうわけだ。
どこかの宮司の姉弟のあの事件
思い出したぜ